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鋼材に使われている元素

包丁の鋼材について
鋼材を構成する元素包丁の鋼材というのは、いくつもの元素が集まってできています。
 
それはこの世の中のどんな物質でも、もちろん私達人間の体でも同じなのですが、包丁の鋼材はほんのちょっとある元素が含まれているかいないか、ということによって大きく性質が変わってしまうのです。
 
なんとなく鋼材の違いは分かっているのだけれど、もっと詳しく鋼材について知りたい。鋼材については分かっているから、もっと細かく鋼材に使われている元素がどんなものか知りたい。理由は様々にあると思いますが、今回は鋼材に使われている元素について説明していきます。
 

目次

  1. 鋼材に使われている元素
  2. 鋼の五元素
  3. 鋼材はシンプルでいて奥深い

 

鋼材に使われている元素

包丁をつくるための金属の塊を鋼材といいます。この鋼材をプレスで圧延したり高温で熱してハンマーで叩いたりして、包丁を作るのです。包丁の鋼材は有名どころでは安来鋼の白鋼、青鋼、ステンレスのSUS420などありますが、使われている元素の種類はそう多くありません。
 
鋼は、鉄100%でできているのではありません。鉄以外の元素を含んだ合金です。
そんな鋼を構成する基本的な元素は、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、燐(P)、硫黄(S)の5つで、鋼の五元素とも呼ばれています。
 
この基本的な鋼に対して、クロム(Cr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、パナジウム(V)などを加えたりすることで、ステンレスや青鋼などの鋼材にしているのです。
 
まずは、鋼の五元素について説明していきます。
 

鋼の五元素

鋼を構成する最も基本的な5つの元素です。
 

炭素(C)

五元素の中でも一番大切な元素です。炭素は鋼材の硬さ、強さを上昇させるために必要です。炭素量の違いによってもろくなったり、焼入れの最適な温度が微妙に変わったりします。そのため、炭素量が多い鋼というのは非常に硬い代わりにちょっとしたことで折れたり欠けたりしやすくなります。
 

ケイ素(Si)

あまり馴染みのない元素だと思います。ケイ素も炭素と同じように鋼材の強度を上げるために必要な元素です。炭素を補助する元素だと思ってください。
 

マンガン(Mn)

マンガンの役目は、包丁の硬度を一気に上げる焼入れという作業の効率を良くすることです。マンガンが入っていることによって、熱してから急激に冷ますという焼入れがやりやすくなります。また、マンガン自体も非常に硬い元素で、鋼材に使われていると粘りを保ったまま強度を上げることができます。
 

燐(P)

鋼の五元素の中でも、問題児なのが燐と硫黄の二兄弟です。温度が低くなると非常にもろくなり、しかも元素同士がすぐにくっつくという性質を持っているので、燐がたくさん含まれていると包丁が折れやすくなります。
 
そのため、質の良い鋼にとっては量が少なければ少ないほど良い元素です。具体的には、0.03%以下となっています。
 

硫黄(S)

硫黄も燐と同じ鋼の問題児です。硫黄の働きは燐とは逆で、温度が高くなるともろくなります。非常にやっかいな元素なので、少なければ少ないほど良いです。
 
鋼材に使われている元素一般的に鋼の中には0.03%ほど入っていますが、安来鋼の白鋼シリーズでは0.004%以下というとても厳しい基準で抑えられているというところから、硫黄がどれくらい厄介な元素なのかわかっていただけるかと思います。
 
上質な鋼というのは、燐と硫黄の含有量が少なく、炭素量のバランスが良く、マンガンとケイ素も適度に含まれている鋼です。ただ、この状態の鋼が世界で一番良い包丁を作ることができて、更に便利な鋼材だという訳ではありません。
 
では、上質の鋼をさらに強くしてくれる元素についても説明しましょう。
 
鋼に加えると良い効果を出してくれる元素
 

クロム(Cr)

安いので使いやすい元素です。鋼に加えることで焼入れをしやすくしてくれる上、さらに耐摩耗性の向上、つまりより丈夫な鋼にしてくれます。また、クロムが入っていることによって鋼の表面に酸化膜という防護膜が張られるようになるので、錆びにくくなります。
 
一般に、ステンレスが錆びにくいのはクロムが一定量以上入っているからです。こうした性質は鋼の中に12%以上クロムが入っていてはじめて発揮されます。ちなみに、安来鋼の銀3では13%ほどのクロム入っています。
 

タングステン(W)

タングステンを加えることによって、鋼を高温で処理しても硬さを維持できるようになります。同時に鋼そのものの硬さや強度も上げてくれるため、粘り強く硬い金属になります。
 
俗にいう青鋼シリーズというのは、不純物をできるだけなくした白鋼シリーズに、上のクロムとタングステンを加えることで強度としなやかさ、そして錆びにくさを増しているのです。
 

モリブデン(Mo)

モリブデンは少量でもとても効果の大きな元素です。加えることで鋼が温度変化によってもろくなったり弱くなったりするのを防ぎます。また、焼入れの効果を上げて鋼自体の強度を上げると共に、錆びにくさも増強します。そのため、ステンレスにも使われたりします。
 
効果としてはタングステンと似たようなものと思うかもしれませんが、量で比べるとモリブデンはタングステンの半分だけで同じくらいの効果を発揮します。ただ、少量すぎては効果を発揮しないので、最低でも1%ほどは必要です。
 

ニッケル(Ni)

俗にいう鋼の粘り、折れにくさ、しなやかさを良くしてくれる元素です。また、ニッケルが入っていることによって高温処理がしやすくなります。
 

パナジウム(V)

パナジウムは主に鋼の耐摩耗性、つまり頑丈さを向上させるために加えられる元素です。一応錆びにくくする効果も持っていますが、そちらは主にお手頃な値段で使いやすいクロムに任されています。
 
鋼を非常に硬くしてくれますし、焼入れの後に更に硬度を上げるために行う焼戻しという作業を行った際、鋼が弱くならないようにしてくれます。モリブデンと同じように、あまりにも少なすぎると効果を発揮してくれないので最低1%は必要です。
 

鋼材はシンプルでいて奥深い

まだ幾つか鋼に加えることでいろんな変化を与えてくれる元素はありますが、一般的に包丁の鋼に加えられる元素はこれくらいです。中には似たような効果が重複していて、どうして別の元素を加えるのかと疑問に思うものもあったと思いますが、違う種類の元素を組み合わせることでバランスを整えることができるのです。
 
鋼材に使われている元素一種類の元素で作った純粋な金属はとても素直で扱い易いですが、元素の特性も素直に反映してしまいます。一見同じような効果を持っているように見えても、細かく性質の違う元素同士を複雑に組み合わせることによって、ハンマーで叩いたり高温に熱したり、一気に冷やしたりしても強さの損なわれない、むしろもっと強くなる金属を生み出すことできるようになります。
 
金属はどれも同じようなものと思ってしまいがちですが、実際にはたった1%組成が違うだけで性質や最適な扱い方が変わってしまいます。包丁を作るための何十にも及ぶ工程や、包丁に向いている性質を持った元素を組み合わせることによって生み出された現代の鋼材には、想像もつかないような理由と努力が隠れています。
 
もちろん、そのためにはきわめて不純物の少ない上質な鋼がベースとして必要になります。元素の話なんてつまらないと思うかもしれませんが、良い包丁をロジカルに理解するには便利な理論なのです。